事業承継対策(全20問中1問目)

No.1

M&Aに関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。
2024年9月試験 問60
  1. 事業譲渡によるM&Aでは、譲受け側の会社は、個別に同意した範囲で特定の事業・財産のみを譲り受けるため、一般に、簿外債務や偶発債務リスクを遮断しやすい。
  2. 株式譲渡によるM&Aでは、譲渡し側の法人格に変動はなく、会社の資産、負債、従業員や社外の第三者との契約、許認可等は、原則として存続する。
  3. 会社が事業の全部の譲渡や事業の重要な一部の譲渡を行う場合、その行為に係る契約について、原則として、株主総会の決議による承認は不要である。
  4. 事業譲渡によるM&Aにより事業を譲渡した会社は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村の区域内およびこれに隣接する市町村の区域内において、その事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業を行ってはならない。

正解 3

問題難易度
肢15.5%
肢25.9%
肢367.0%
肢421.6%

解説

  1. 適切。事業譲渡とは、企業の全部または一部の特定の事業を他社へ譲渡(売却)する取引のことで、企業から他社へ譲渡する事業や資産、負債は両社の同意のもとに個別に契約して移転します。買い手が承継する財産は契約で定められるので、譲受け側の会社が予期しない簿外債務や偶発債務を承継するのを防ぐことができます。なお、"簿外債務"とは貸借対照表に計上されない退職給付引当金やリース債務など、"偶発債務"とは債務保証や訴訟リスクなどを指します。
  2. 適切。株式譲渡とは、譲渡企業(売り手)の株主が保有している株式を、譲受企業(買い手)に対して譲渡する取引で、譲受企業から譲渡企業へ株式代金が支払われるとともに、譲渡企業の経営権が譲受企業へ移転します。経営権が移転するだけで法人格に変動はないので、譲渡企業の資産、負債、従業員との雇用契約、取引先との取引関係、事業上必要な許認可などはそのまま引き継がれます。
  3. [不適切]。株式会社が、①事業全部の譲渡や②重要な事業の一部を譲渡する場合、株主総会の特別決議による承認が必要です。事業譲渡が株主の利益に重大な影響を与える可能性があるからです。なお、重大でない事業の一部を譲渡する場合や、重要な事業の一部であったとしても、譲渡する資産の帳簿価額が譲渡会社の総資産額の20%以下である場合には、株主総会での決議は不要とされています。
  4. 適切。事業を譲渡した会社は、同一の市町村の区域内および隣接する市町村の区域内において、当事者間で別段の取り決めがない限り、その事業を譲渡した日から20年間は同一の事業を行ってはなりません。これは譲渡企業に対して与えられる「競業避止義務」です。譲渡企業が同様の事業を再開した場合、譲受企業の競合となり、顧客を奪うなどの損害をもたらすおそれがあるため、一定の範囲や期間で競業が禁止されています。
したがって不適切な記述は[3]です。